
「辺野古新基地ができれば普天間基地は返る」という前提が崩れている
日本政府は四半世紀にわたり、「辺野古新基地が完成すれば、世界一危険といわれる普天間飛行場は返還される」と説明してきました。これは1996年のSACO合意以来、日米両政府が県民に示してきた約束の核心部分です。
ところが2026年に入ってから、この前提そのものを揺るがす事実が立て続けに表面化しています。
- 米国防総省(ペンタゴン)が2026会計年度予算報告書で「代替滑走路が選定されるまで普天間は返還しない」と明記していたことが発覚
- 米海兵隊の現役中佐(アトランティック・カウンシル研究員)らが「普天間と辺野古の両方を保持すべき」とする論文を公表
- 辺野古移設の裏で、返還予定のはずの普天間基地に日本側が200億円超を投じて改修工事を続けていた事実が、情報公開請求で明らかに
これらは単発の出来事ではありません。アメリカ側が長年「辺野古新基地は本当に完成できるのか」という冷めた目で見てきたという深い文脈の上に、いま顕在化してきた動きです。
本記事では、その全体像を一次資料に当たりながら整理します。
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1. 大浦湾の「マヨネーズ状軟弱地盤」——土木史上に前例のない無謀な工事

2018年、元土木技術者の北上田毅氏(沖縄平和市民連絡会)が情報公開請求で入手した防衛省のボーリング調査結果から、辺野古新基地建設予定地である大浦湾側の海底に、異様な軟弱地盤が存在することが判明しました。
1-1. 「N値ゼロ」が連発する超軟弱地盤
「N値」とは、63.5kgのハンマーを75cmの高さから落下させ、直径51mmのサンプラーが30cm貫入するのに何回必要かという地盤強度の指標です。数字が大きいほど硬く、一般的な大型構造物の基礎としては「N値50以上」が必要とされます。
ところが大浦湾の調査結果では、V字型滑走路の東側護岸付近、海面下30〜70mの深さで「N値ゼロ」が多数の地点で確認されました。これは、ハンマーを1回も打ち下ろさなくても、サンプラー(試掘用の杭)が自重で30cm以上ズブズブと沈んでいったことを意味します。
専門家が「マヨネーズ状」「豆腐並み」と形容するのは比喩ではなく、杭が自重で沈むほど柔らかい層が海底下に40m以上積み重なっているという、土木工学的に前代未聞の状況を表現したものです。
ちなみに辺野古新基地の護岸に設置するケーソン(鋼鉄製の箱)は総数38函で、大型のもので1函7,000トン以上。基礎に敷く捨石も最大200kg級の巨大石材です。これらをN値ゼロの地盤に置いただけで、数十m下まで沈み込んでしまう計算になります。
1-2. 防衛省の計画——砂の杭7万本超という規模
これを受けて防衛省が策定した設計変更計画の概要は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 改良深度 | 水面下70mまで(深度40m分の軟弱地盤) |
| 改良面積 | 約66ha |
| 工法 | サンドコンパクションパイル工法(SCP)+サンドドレーン工法(SD) |
| 杭総数 | 76,699本(SCP 38,945本+SD 37,754本)※報道によっては「約7万1,000本」と記載 |
| 砂量 | 東京ドーム5杯分 |
| 工期 | 3年半(地盤改良のみ) |
| 総工費 | 当初の3,500億円から9,300億円(2.7倍)に膨張 |
ここで重要なのは、打ち込むのが鉄骨やコンクリートの杭ではなく「砂の杭」だという点です。SCP工法は、海底に砂を圧入して振動・衝撃を加えながら柱状に固め、周辺地盤の水分を押し出して圧密させて地盤強度を上げる手法です。一般的な工法ではあるものの、水深90m級の軟弱地盤に適用した前例は世界のどこにもありません(琉球朝日放送QAB報道、鎌尾彰司日本大学准教授の解説)。
沖縄県の試算では、7カ所分の護岸工事だけで政府の資金計画の12倍(928億円)になることから、埋め立て費用は当初の10倍、2兆5,500億円にまで膨らむとの見方も示されています。
1-3. 最大の致命的問題——「70m vs 90m」の埋められないギャップ
ここからが、この計画の工学的な実現可能性を最も深刻に揺るがす論点です。
軟弱地盤の実際の深さは、最深で水面下90m(大浦湾のB27地点)。海面から海底まで30m、さらにそこから60m下まで軟弱層が続いていることが、防衛省自身のボーリング調査で判明しています。

ところが日本国内に存在する地盤改良船(砂杭圧入船)の能力限界は、水面下約70mまで。水深90mに対応できる作業船は国内にはなく、世界的にも前例がありません。
つまり約20メートルの「改良不能ゾーン」が、改良層のすぐ下に横たわったまま残されることになります。その真上に、ケーソン護岸と1,800mの滑走路を含む巨大な米軍基地を載せようとしているのが現在の計画です。
防衛省の「根拠」が崩壊している4つのポイント
防衛省はこう主張してきました。
「水面下70mより深い粘土層は非常に硬いため、地盤改良(杭打ち)は不要である」(岩屋毅防衛相・当時)
しかし、この主張の根拠そのものが、国会審議を通じて次々と崩れています。
崩壊ポイント①:B27地点で実測調査を行っていない
最深90mに達する軟弱地盤の中心地点「B27」で、防衛省は地盤強度の実測調査を一切行っていません。
代わりに、最大750m離れた他の3地点(S3、S20、B58)のデータから強度を「推計」しているに過ぎません。沖縄県が設計変更を不承認とした主な理由も、この点にあります。
新潟大学の立石雅昭名誉教授(地質学)は次のように指摘しています。
「リスクの高い地点なのに調査しないほうが不自然。意図的に避けているとしか思えない。技術検討会は、政府にお墨付きを与えるためだけにあるのか」(東京新聞)
崩壊ポイント②:防衛省自身の提出資料が「硬い」を否定
2019年、日本共産党の井上哲士参議院議員の追及に対し、防衛省は国会にB27地点の海底面下40〜60m(水面下70〜90m)の「換算N値」を提出しました。その結果は衝撃的なものでした。
- 地盤改良が必要とされるN値10未満の地点が多数
- 防衛省が「非常に硬い」と主張する粘土層の基準(N値15〜30)を大きく下回る
- 90m地点(水面下90m)を含め、「硬い」とは到底言えない数値
つまり防衛省自身が国会に提出した資料によって、「70m以下は硬いので改良不要」という計画の前提が自己否定されてしまったのです。これは陰謀論でも野党の主張でもなく、防衛省公式資料による事実です。
崩壊ポイント③:防衛相が「軟弱層は77mまで」と認識を修正
2020年2月、河野太郎防衛相(当時)は、軟弱地盤が水面下約77mまで及ぶと認識を修正しました。
防衛省自身が「70mで止まる」という前提を放棄したわけですが、それでも計画は「70mまでの改良で護岸の安定性は確保できる」として進められています。
修正された新しい前提(77m軟弱)と、既存の設計(70mまで改良)との辻褄は合わないままです。
崩壊ポイント④:技術検討会の公正性への疑義
防衛省が「B27で実測しなくても問題なし」とする根拠の一つは、専門家でつくる技術検討会のお墨付きです。ところが東京新聞の情報公開請求で、この委員会のメンバーの一部が、辺野古工事の受注業者から奨学寄付金を受け取っていたことが判明しました。
- 2019年9月の委員就任までの5年余りで、委員3人が受注業者から計570万円の資金提供
- 委員就任後も2人が計230万円を受領
公共事業に詳しい専門家は「まるで出来レースだ」と、設計変更の決定プロセスに疑問を投げかけています。
1-4. 専門家の警告——不等沈下か、最悪は崩壊
土木・地盤工学の専門家は、次のような重大なリスクを警告しています。
- 未改良のまま残される約20m分の軟弱層に、護岸・改良地盤・埋立土の全重量が伝わる
- 結果として地盤沈下は避けられない
- 沈下が均等に起きればまだしも、**不等沈下(不均等に沈むこと)**が起きれば滑走路の使用自体が困難に
- 最悪の場合、護岸が沈下・変形し、埋立自体が成り立たなくなる
赤旗日曜版の取材に応じた地盤工学の専門家は、「作業船が届くところまで砂杭を入れ、その下は軟弱地盤を未改良のままにするしかない。護岸・改良した砂・埋め立て土の重さが未改良地盤に伝わるため、地盤沈下を許容した基地となるしかない」と明言しています。
加えて、建設予定地の周辺には活断層が存在する可能性も地質学者から指摘されています(加藤祐三琉球大学名誉教授ら)。超軟弱地盤の上に建つ基地が地震に襲われた場合、液状化や不等沈下が一気に進行するリスクは極めて高いと見られています。
1-5. この計画に関するまとめ——「無謀」という評価の根拠
- 世界初の水深90m級軟弱地盤への埋立
- 国内の作業船では70mが限界、約20m分の改良不能ゾーンが残る
- その改良不能ゾーンに位置するB27地点で防衛省は実測調査すらしていない
- N値0〜10未満の「マヨネーズ状」層の上に7,000トン級ケーソンと滑走路を載せる
- 7万本超の砂杭・東京ドーム5杯分の砂という土木史上空前の投入量
- 防衛省が国会提出資料で「70m以下は硬い」という計画前提を自己否定
- 河野防衛相が軟弱層を77mまでと認識修正しながら、設計は70mまで改良のまま
- 技術検討会の委員が受注業者から計800万円の資金提供を受けていた
- 工期延長・費用膨張・環境破壊(戦没者遺骨の眠る沖縄南部土砂の調達問題を含む)
これは「技術的に難しい工事」という次元を超えて、「工学的には成立していない計画を、政治的都合で『できる』と言い張って進めている」と評価すべきものです。
この構造を理解した上で、米国の議会・シンクタンクが下してきた評価を見ていきます。彼らが「非現実的」「実行不可能」「完成する見込みが薄い」と冷徹に評価している背景には、まさにこの「不可能を可能と言い張る工事」への構造的な不信があります。
2. アメリカが積み重ねてきた「辺野古は作れない」という評価
2-1. 上院重鎮3議員の衝撃的声明(2011年5月)
2011年5月11日、米上院の国防・外交政策を牛耳る超党派の重鎮3議員が連名で、現行の在日米軍再編計画——特に辺野古移設——を真っ向から批判する声明を発表しました。
- カール・レビン上院議員(民主党・上院軍事委員会委員長)
- ジョン・マケイン上院議員(共和党・軍事委員会筆頭理事)
- ジム・ウェッブ上院議員(民主党・外交委員会東アジア太平洋小委員会委員長、元海軍長官、元海兵隊員)
彼らは沖縄とグアムを直接視察した上で、辺野古計画を「非現実的で、実行不可能で、予算的にも成り立たない(unrealistic, unworkable, and unaffordable)」と断じ、代替案として「普天間機能の嘉手納基地統合案」などを正式に提言しました。
ウェッブ議員は自身のウェブサイトで、辺野古案について「数十億ドル規模の膨大な埋立と既存施設の破壊・移設を伴う事業」であり、完成まで「10年かかるとの見方もある」と述べ、その非現実性を強調しています。
2-2. 米議会調査局(CRS)の継続的な懸念表明
米連邦議会の独立した調査機関である議会調査局(CRS)は、「日米関係に関する議会向け報告書(Japan-U.S. Relations: Issues for Congress)」や「沖縄の米軍プレゼンスと普天間基地問題(The U.S. Military Presence in Okinawa and the Futenma Base Controversy)」などのレポートで、辺野古新基地建設の工期遅延、費用の膨張、政治的実現可能性について再三にわたり懸念を示してきました。
CRS報告書はレビン・マケイン・ウェブ3議員の声明についても詳細に記録しており、米議会内では「現行計画は実行困難」という認識が長年共有されていることが一次資料から確認できます。
2-3. 米下院軍事委員会の「軟弱地盤」への公式な懸念(2020年)
特に重要なのが、米連邦議会下院軍事委員会の「即応力小委員会(Subcommittee on Readiness)」が、2021会計年度国防権限法案(NDAA FY2021、H.R.6395)の審議過程で採択した条項です。
この条項は、辺野古の軟弱地盤(soft seabed)や活断層に関する懸念を正式に表明し、国防総省に対して工事費総額や工学的実行可能性の再評価報告を要求したものでした。小委員会のある議員は地元紙の取材に対し、次のように明言しています。
「基地を使うのは米軍。米国の基準を満たす必要がある。日本が作成したデータを米側専門家が検証する必要がある」(2020年6〜7月、琉球新報など)
ここが重要なポイントです。米議会は「日本政府が作ったデータ自体を信用していない」と公然と述べているのです。前章で見たように、防衛省は最重要地点B27で実測せず、国会提出資料では自らの計画前提を否定する数値を出しています。米側の不信感には十分な根拠があるわけです。
(なお、この条項は最終的な両院協議を通過した法案からは削除されましたが、米議会が公式文書で「軟弱地盤の技術的リスク」に踏み込んだという事実は重いものです。)
2-4. CSIS(戦略国際問題研究所)の「完成不可能」評価(2020年)
米国を代表する安全保障シンクタンクであるCSISのマーク・カンシアン上級顧問(元海兵隊大佐・OMB元幹部)は、2020年11月発表の報告書『U.S. Military Forces in FY 2021: Marine Corps(2021会計年度の米軍戦力:海兵隊)』の中で、辺野古新基地について踏み込んだ評価を下しました。
“This project continues to have difficulties, with the completion date pushed out again, to 2030, and the price skyrocketing. It appears unlikely that this will ever be completed.” (このプロジェクトは困難を抱え続けている。完成予定は再び2030年まで延期され、費用は急騰している。このプロジェクトが完成する見込みは薄いように思われる。)
このレポートが特に重要なのは、カンシアン氏が単に辺野古の失敗を指摘しているだけでなく、米海兵隊が現在推進しているEABO(遠征前進基地作戦:Expeditionary Advanced Base Operations)——固定的な巨大基地から分散型・機動型の運用への転換——という戦略転換の文脈で論じている点です。
つまり、「辺野古はそもそも時代遅れの巨大固定基地構想であり、仮に完成しても海兵隊の新戦略には合わない」という二重の意味で計画の正当性を疑問視しているのです。
2-5. GAO(米政府監査院)の滑走路長問題の指摘(2017年〜)
米国の会計検査院にあたるGAO(政府監査院)は2017年、辺野古の代替施設に建設される滑走路が既存の普天間基地より短く(普天間:約2,740m/辺野古:1,800mのV字型2本)、「海兵隊の運用能力を低下させる」と指摘しました。
このGAO勧告を受け、国防総省は2026会計年度の予算文書で次のような重大な回答を示しています。
「代替滑走路の選定は日本政府の責任であり、日本政府が選定するまで普天間基地は返還されない」
これは2026年2月、東京新聞や沖縄タイムス、共同通信などが一斉に報じました。沖縄タイムスは「米軍が普天間を返還しない条件に言及したのは初めて」と指摘しています(ただし日本政府は「以前から同じ表現は使われていた」と説明)。
玉城デニー沖縄県知事は「地政学的に都合がいいから(米軍基地を)沖縄に集中させるというのは言い訳に過ぎない」と反発し、米側の真意を日本政府に確認するよう要求しています。
3. 2026年2月の衝撃——海兵隊中佐が「両方保持」を公然と主張

3-1. アトランティック・カウンシル論文の内容
2026年2月3日、米ワシントンの有力シンクタンク「アトランティック・カウンシル」のウェブサイトに、海兵隊中佐カレブ・イームズ氏(同カウンシルのフェロー)と共著者エイミー・コウリー氏による論文が掲載されました。
論文の核心的な主張は以下の2点です。
- 普天間と辺野古の両方を保持せよ “Washington and Tokyo should keep both Futenma and the replacement facility in Schwab.” (ワシントンと東京は、普天間とキャンプ・シュワブの代替施設の両方を保持すべきである。) この措置は「作戦上の柔軟性を最大化し、地域危機への対応に不可欠な兵站拠点を温存する」と主張。
- グアムへの海兵隊移転計画(9,000人のうち5,000人)を停止せよ 「第一列島線から即応部隊を引き抜くことは抑止力を損ない、中国の軍事計画担当者に利益を与えるだけだ」
海兵隊司令部は「イームズ氏の見解は彼個人のもの」「海兵隊は現行の再編計画を実施し続ける」と公式にコメントしましたが、現役の海兵隊将校が名指しで「約束を破りなさい」と主張する論文を有力シンクタンクから出したという事実の重みは無視できません。
3-2. 重要な背景——海兵隊コマンダントの発言
注目すべきは、2025年時点で海兵隊司令官エリック・スミス大将自身が、グアムへの海兵隊移転について「間違った方向に進んでいる(going the wrong way)」と発言していたことです(アジアタイムス、2026年2月報道)。
つまりイームズ中佐の論文は「個人的見解」という体裁こそ取っているものの、海兵隊トップの問題意識と重なる内容であり、組織としての本音が滲み出た見方をされています。
3-3. 論理のすり替え構造
注意深く見ると、この論文の議論には重大なすり替えがあります。
当初の日米合意は「辺野古の新基地が完成したら普天間を返還する」というトレードオフでした。ところが論文は次のような論理を展開しています。
- 辺野古の滑走路は普天間より短く、能力不足
- 加えて軟弱地盤で完成時期が不透明
- ゆえに普天間を手放すのはリスクが大きすぎる
- したがって、両方を運用し続けるべきである
本来であれば「辺野古は工学的にも運用面でも無理があるから、別の解決策を探ろう」となるべき議論が、「辺野古の限界を理由に、普天間を恒久的に使い続ける正当化」へとねじれているのです。沖縄からすれば、これは約束の完全な反故といえます。
4. 予算データが示す「普天間を手放さない」意図——217億円の改修費
この「両方保持」論が単なる机上の議論ではないことを裏付ける具体的なデータが存在します。
4-1. 東京新聞のスクープ(2024年8月)
東京新聞が沖縄防衛局に情報公開請求を行った結果、以下の事実が判明しました。
- 返還予定の普天間基地に、2013年度以降、日本側が217億円の補修費を負担
- 沖縄防衛局が発注した補修工事は、2023年度末までに18施設・149件、契約総額200億円超
- 格納庫、隊舎、倉庫などの改修が中心
- うち、雨水排水施設の「改修」として40億円をかけて巨大な調整池を基地内に新設した工事も含まれる
- この補修工事は米国側からの要望で、防衛省は「日米2+2共同発表を踏まえ2013年度から実施」と説明
- 米軍も独自に、2017年度に滑走路のかさ上げ工事を実施(費用非公表)
興味深いのは時系列です。この補修工事が本格化した2013年は、日米両政府が「早ければ2022年度に普天間返還が可能」との見通しを示していた年でもあります。つまり「返還」と宣伝しながら、一方で「延命」のための巨額投資を続けていたことになります。
4-2. 米海兵隊側のコメント
東京新聞の取材に対し、米海兵隊太平洋基地は次のように回答しています。
「普天間では、運用と即応性を支える施設を確保するために補修が必要だ。任務遂行能力を維持できるよう、返還されるまで維持管理されなければならない」
表向きは「返還までの維持管理」という言い回しですが、返還時期がすでに2030年代後半以降にずれ込んでいること、そして返還条件である「同等の代替滑走路」が選定されていないことを合わせて考えれば、事実上、恒久使用に向けた投資と見るべきでしょう。
4-3. 研究者の指摘
沖縄国際大学の前泊博盛教授はこう疑問を投げかけます。
「普天間返還が決まった後に、数百億円をかけて毎年のように施設建設を行う。その矛盾を日本政府はどう説明するのか」
中央大学の宮城大蔵教授(日本外交史)も、「目指すべき目的(危険性除去)が不明瞭であるため、辺野古と普天間の両方にお金を投じる不合理さを招いている」と東京新聞で指摘しています。
5. 過去にも存在した「辺野古は作れない」という米側の本音
5-1. ジェームズ・ジョーンズ元国家安全保障担当大統領補佐官
米海兵隊総司令官(1999〜2003年)、NATO欧州連合軍最高司令官(2003〜2006年)、オバマ政権の国家安全保障担当大統領補佐官(2009〜2010年)を歴任したジェームズ・ジョーンズ氏は、2020年1月の共同通信インタビューで、2006年の再編合意当時、沖縄県民の激しい反発と政治的困難さから、合意の現実化を想像できなかった旨を語ったと報じられています。
米軍と米政府の安保政策の中枢にいた人物が、「当初から完成を信じていなかった」という趣旨の証言をしたことは、米側の本音が長年どこにあったかを示唆する重要な事実です。
※ファクトチェック注:ジョーンズ氏の発言については、2020年当時の共同通信報道が一次ソース。正確な言い回しや文脈については原報道に当たることを推奨します。
5-2. 「レビン・ウェブ・マケインショック」の含意
前述した2011年の3議員声明は、沖縄問題研究者の間で「レビン・ウェブ・マケインショック」と呼ばれています。注目すべきは、この声明がマケイン議員(共和党タカ派の代表格)とウェッブ議員(元海軍長官・元海兵隊員)という日米同盟の強化論者を含んでいた点です。
米側が辺野古に疑問を抱いているのは「反米基地派」の議員ではなく、むしろ同盟を真剣に考える安保専門家たち——というのが構造的な特徴です。
6. 構造的帰結——「基地の恒久化・複数化」の現実味
以上の事実関係を整理すると、次のような構造が浮かび上がります。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 工学的現実 | 水面下90mの軟弱地盤、国内改良船の限界は70m。約20m分の未改良ゾーン |
| 防衛省の説明 | 「70m以下は非常に硬い」→ 国会提出資料(N値)で自己否定 |
| 軟弱層の実態 | 河野防衛相が「77mまで」と認識修正、だが設計は70mまでのまま |
| B27地点の実測 | 未実施(最大750m離れた他地点データから推計) |
| 技術検討会の公正性 | 委員が辺野古受注業者から計800万円の資金提供を受領 |
| 総費用 | 当初3,500億円→9,300億円(2.7倍)。県試算では2兆5,500億円 |
| 完成時期 | 2030年代後半以降 |
| 運用上の限界 | 辺野古の滑走路は1,800m(普天間2,740mの約3分の2) |
| 米議会・シンクタンクの評価 | 「完成可能性は低い」(CSIS)、「実行不可能」(米上院重鎮3議員) |
| 米国防総省の公式見解(2026年) | 「代替滑走路が選定されるまで普天間は返還しない」 |
| 現役海兵隊将校の論文(2026年2月) | 「普天間と辺野古の両方を保持すべき」 |
| 日本側の実際の行動 | 普天間基地に2013年度以降、217億円超の改修費を投入 |
これらを総合すると、「辺野古完成→普天間返還」というトレードオフの前提は、実務的にも戦略的にも、もはや崩壊しつつあると言わざるを得ません。
米側が冷徹に見ている「辺野古は作れないだろう」という評価の根底には、本記事第1章で詳述した「工学的に不可能なものを可能と強弁する日本政府」への不信があります。
N値ゼロの層に7,000トンのケーソンを置き、改良不能な約20m層の上に巨大基地を載せる——この無謀な計画が本当に完成するかどうか、米議会・GAO・シンクタンクは冷めた目で見続けてきたのです。
そして彼らが出した答えの一つが、2026年2月のアトランティック・カウンシル論文に表れた「辺野古が完成するかどうかは別として、普天間は確保し続けるべき」という発想であり、2026年2月のペンタゴン予算文書に記された「代替滑走路が選定されるまで普天間は返さない」という公式見解です。
当初の1996年SACO合意は、「新基地の完成と引き換えに普天間を返す」というシンプルな構造でした。しかし2026年現在、浮上しているのは次のシナリオです。
- 辺野古は完成するかどうか不明(工学的・政治的に)
- 仮に完成しても能力不足で、米軍は普天間を手放したがらない
- 代替滑走路の選定という条件が付き、普天間返還は制度的にブロックされている
- 日本政府は普天間を長期運用可能な状態に保つ工事を続けている
- 米海兵隊内部では「両方保持」論が公然と登場
これは沖縄県民にとって、当初の約束とはまったく異なる結末です。新基地が完成しても普天間は返らず、結果として「基地が増える」
この現実味が、工学的疑念の露呈と海兵隊の新戦略(EABO)を触媒として、急速に高まっています。
7. おわりに——議論の起点を取り戻すために
「普天間の危険性除去」こそが、この四半世紀、日米両政府が沖縄県民に示してきた原点でした。しかし今、その原点そのものが忘却され、辺野古埋立という手段の実行だけが自己目的化している状況があります。
いま見えているのは、次のような構図です。
- 工学的には世界に前例のない水深90m軟弱地盤工事を、約20m分の改良不能ゾーンを残したまま強行
- その根拠となるべき地盤強度データは、防衛省自身の国会提出資料によって否定済み
- 最重要地点(B27)の実測は未だ行われていない
- 技術検討会の委員が辺野古受注業者から資金提供を受けていた
- 費用は当初の2.7倍まで膨張し、完成見通しは2030年代後半以降
- そして日本政府は、返還予定の普天間基地に217億円超の改修費を投じ続けている
- 米側は「辺野古は作れないだろう」と冷めた目で見ており、「両方保持」の議論まで現役将校が公然と展開
宮城大蔵教授が指摘するように、いま必要なのは「目的の再確認」です。危険性除去が目的なら、辺野古と普天間の両方にお金を投じる不合理さは、そもそも議論の出発点として問われるべきでしょう。
「アメリカが辺野古を諦めているのではないか」「むしろ両方使い続けるつもりではないか」という疑念は、もはや陰謀論ではなく、一次資料・国会提出資料・予算データ・現役将校の論文に裏付けられた構造的な問いかけとなっています。
2026年以降、この問題は新しい局面に入ったと認識すべきです。
(文/編集部)
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参考資料・参照リンク一覧
軟弱地盤・工事関連(国内報道・一次資料)
- 東京新聞「何が何でも?政府の『辺野古』ごり押しエピソード 軟弱地盤なのに調べもせず…」(2024年1月) https://www.tokyo-np.co.jp/article/301794
- 琉球朝日放送QAB「辺野古新基地 識者が見た『無謀な工事の姿』」(2020年9月、鎌尾彰司日本大学准教授の解説) https://www.qab.co.jp/news/20200922129489.html
- 赤旗「辺野古軟弱地盤 最深90メートル/杭は7.7万本必要」(2019年2月) https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2019-02-09/2019020901_01_1.html
- 赤旗「辺野古90メートル軟弱地盤 防衛省 強度調べず」(2019年3月、井上哲士参議院議員の国会追及) https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2019-03-29/2019032902_02_1.html
- 赤旗日曜版「辺野古 70メートル超も軟弱地盤/改良工事 根拠崩れる」(2020年2月、B27地点地盤強度スクープ) https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2020-02-09/2020020901_01_1.html
- 長周新聞「解決策ない辺野古の軟弱地盤」(2022年9月) https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/22215
- 国際環境NGO FoE Japan「辺野古新基地建設事業に係る防衛省への質問事項」(北上田毅氏作成、2019年2月) https://www.foejapan.org/aid/henoko/pdf/190225_questionnaire1.pdf
- ニュー・ディプロマシー・イニシアティブ「米議会 新基地に疑義 軟弱地盤対策納得せず」(2020年6月) https://www.nd-initiative.org/contents/8278/
- 玉城デニー知事会見映像(辺野古完成見通しに関するニュース) https://youtu.be/stksTKFb7sI
一次資料(米国政府・議会)
- 米議会調査局(CRS)「日米関係に関する議会向け報告書」等 https://crsreports.congress.gov/ (検索キーワード:
Okinawa Futenma Henoko,Japan-U.S. Relations) - CRS報告書 “The U.S. Military Presence in Okinawa and the Futenma Base Controversy” (R42645) https://www.everycrsreport.com/reports/R42645.html
- 米下院軍事委員会「即応力小委員会」:2021会計年度国防権限法案(NDAA FY2021, H.R.6395) https://www.congress.gov/bill/116th-congress/house-bill/6395/text
- 米政府監査院(GAO)公式サイト https://www.gao.gov/ (検索キーワード:
Futenma Replacement Facility,Marine Corps Okinawa)
シンクタンク・論文
- CSIS Mark F. Cancian, “U.S. Military Forces in FY 2021: Marine Corps” (2020年11月16日) https://www.csis.org/analysis/us-military-forces-fy-2021-marine-corps
- アトランティック・カウンシル Lt Col Caleb Eames & Amy Cowley 論文 (2026年2月3日) ※普天間と辺野古の両方保持を主張する論文
2026年の普天間返還関連報道
- Stars and Stripes “Top senators call U.S. military plans in Japan unworkable, unaffordable” (2011年5月) https://www.stripes.com/news/top-senators-call-u-s-military-plans-in-japan-unworkable-unaffordable-1.143371
- Council on Foreign Relations “U.S. Senators Weigh in on Futenma” (2011年5月) https://www.cfr.org/blog/us-senators-weigh-futenma
- 琉球新報(英語版)”Washington is concerned by Henoko plans” (2020年7月) https://english.ryukyushimpo.jp/2020/07/05/32352/
- Japan Today / 共同通信 “U.S. Marine officer opposes closure of key U.S. air base in Okinawa” (2026年2月) https://japantoday.com/category/national/u.s.-marine-officer-opposes-closure-of-key-u.s.-air-base-in-okinawa
- The Japan Times “U.S. won’t return Futenma site unless Japan agrees to long runway at Henoko” (2026年2月) https://www.japantimes.co.jp/news/2026/02/19/japan/futenma-runway-okinawa/
- Stars and Stripes “Tokyo says Pentagon language on return of Marine base on Okinawa is nothing new” (2026年2月) https://www.stripes.com/branches/marine_corps/2026-02-23/mcas-futenma-okinawa-relocation-20849326.html
- Asia Times “Moving US Marines out of Okinawa would be a grave mistake” (2026年2月) https://asiatimes.com/2026/02/moving-us-marines-out-of-okinawa-would-be-a-grave-mistake/
普天間基地改修費関連
- 東京新聞「<独自>普天間飛行場の補修に217億円 辺野古移設の裏で10年以上も税金投入」(2024年8月13日) https://www.tokyo-np.co.jp/article/347110
- 文化放送「辺野古ではなく普天間に217億円!日本の税金で補修工事」(2024年8月) https://www.joqr.co.jp/qr/article/132222/
- 沖縄タイムス「普天間飛行場移設の関連経費 過去最高3373億円」(2025年12月27日) https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1744262
- 琉球新報「辺野古費用9割到達へ 来年度予算」(2025年12月27日) https://ryukyushimpo.jp/politics/entry-4907506.html
日本政府公式サイト
- 防衛省「普天間飛行場代替施設について」 https://www.mod.go.jp/j/approach/zaibeigun/frf/index.html
- 沖縄県「辺野古新基地建設問題の経緯」 https://www.pref.okinawa.lg.jp/heiwakichi/futenma/1017409/1017427.html
※本記事は2026年4月時点で確認可能な一次資料と報道をもとに構成しています。URLや文書名は今後変更される可能性があるため、参照の際は検索キーワードを併用することをおすすめします。
